2023

08.

04

天然ゴム の樹の樹液ってなに?

天然ゴム の樹の樹液ってなに?

今や 天然ゴム は我々の生活に欠かせない重要な資源となっておりますが、その原料が細く背の高い樹木の樹液からできていることを知る人は少ないのではないでしょうか。

本稿ではすべての天然ゴムの原料である天然ゴム樹の樹液(ラテックス)についてフォーカスしていきたいと思います!

天然ゴムの樹の歴史は長い・・・

天然ゴムの歴史は1493年まで遡ります。天然ゴムの樹は”Hevea Brasiliensis”という品種で、もともとはアマゾン河周辺に原産する細いまっすぐな樹です(成樹は30メートルもの高さになります)。1493年、クリストファー・コロンブスが中央アメリカへ遠征中、アマゾン地域に根差すマヤ族の人々がその樹の白い粘着性のある樹液を使って弾むボールやおもちゃを制作したり、服を樹液に浸してコーティングすることで撥水効果を得たりしているのを発見しました。コロンブスはその後祖国に帰り、この樹液の存在を報告したとされています。

天然ゴム 農園

コロンブスによるゴム樹液の発見(厳密にはマヤ族の発見ですが・・・)からおよそ300年、1770年にイギリスの化学学者であるジョゼフ・プリーストリーが大発見をします。鉛筆の筆跡を乾いた樹液の塊でこすると消える・・・こする=”Rub”することで消しゴムとして使えることを発見。その樹液は”Rubber”と名付けられました。プリーストリーさんがラバーの名付け親ですね。

ゴム樹液が本格的に工業的に使われ始めたきっかけは、”Rubber”と名付けられてからおよそ70年後、アメリカの発明家、チャールズ・グッドイヤーによるゴム樹液の「加硫法」の発見になります。

グッドイヤーさんによるゴムの加硫法の発見

グッドイヤーさんはアメリカの発明家で、独学で化学を研究していました。当時の乾燥したゴムは柔らかすぎたり、形が崩れてしまったりと、現在のような使い方をするにはいまいち物性が足りませんでした。グッドイヤーさんはより形態が安定したゴムを探求する中で、間違ってゴムと少量の硫黄をストーブの上に落とし、その焦げたゴムが弾性を保ちながら形態が安定していることに気づきました(諸説あり)。これが後にゴムの加硫法に繋がります。ゴムに硫黄を混ぜて熱することで形を保ちながら弾性を示します。実は現在のゴム製品の多くはこの方法により様々な形に整えられた後に加硫され、形態の安定したゴム製品になります。ペニシリンの発見のように偶然に物事が発見されることを英語では Serendipity – セレンディピティと言うそうですが、これもまさに人類の歴史を変えたセレンディピティと言えるでしょう。

ヘンリー・ウィカム卿とゴムの種

1800年代後半から天然ゴムへの需要が急激に高まるとともに、南米のアマゾン河沿いの小さな町も凄まじい勢いで発展していきました。当時、天然ゴムの樹は栽培ができず、アマゾンのジャングルに自生するのみでした。多くの労働者が森の中のゴム樹から樹液を採取し、大量のゴムが出荷され、商売人は大いに儲かりましたが、同時に多くの強制労働が行われました。そんなブラジルの天然ゴムの独占販売を崩すきっかけを作ったのがイギリスのヘンリー・ウィカム卿です。

ウィカム卿は1875年に70,000粒のゴム樹の種をブラジルで入手し、母国へ持ち帰りました(その方法については賛否両論あるようです)。その後ロンドンのRoyal Botanical Gardensで約2,800粒が発芽し、当時のセイロン(現スリランカ)やボルネオ(現マレーシア)へ出荷されました。最初は中々栽培までは行かなかったものの、1895年にシンガポールで栽培に成功し、天然ゴム樹の栽培は東南アジアを中心に広まりました。現在の天然ゴムの生産の8割以上が東南アジア諸国になっています。

採取方法は原始的!?

そんな天然ゴムの樹から樹液を採取する方法は想像以上に原始的です。ゴムの樹から樹液を採取することをタッピングと呼びますが、これは雨の降っていない日の早朝に行われます。雨が降った場合、雨水が樹液に混入してしまうため、基本的には晴れの日でなければタッピングは行われません。また、ゴムの樹から樹液が出やすい時間帯が早朝なため、日が昇る前の暗闇の中でタッピングは開始されます。特殊な形をしたナイフ(タッピングナイフ)を用いて、採取者(タッパー)が1本1本樹の幹に斜めの切り傷を入れていきます。切り傷から数時間かけて樹液が流れ出て、その切り傷を伝い、幹に設置された採取用のカップに溜まります。

この切り傷をつける技術はかなり高度で、新米のタッパーが1年ほどかけてやっと習得できるものです。傷が浅ければ樹液が十分に流れ出ず、深すぎればゴムの樹自体を痛めてしまうため、絶妙な力加減が求められます。同時に限られた時間の中で数百本の樹をタッピングする必要があるため、スピードも求められます。骨が折れる作業です。

タッピングから数時間後、カップに溜まったゴムの樹液(ラテックス)はジャバジャバと大きなバケツに集められ、出荷できる形に加工されていきます(また別のブログ投稿で紹介します!)。

カップに溜まっていく樹液

ラテックス vs カップランプ

ここまで読まれてきた方は、天然ゴムはすべてこのラテックスを加工して作られるもと思われるかもしれませんが、実はゴムの樹からとれる原料はもう1種類あります。それがカップランプ(Cuplump)です。

採取用のカップからラテックスが大きなバケツへ集められた後、カップは再度樹の幹に設置されます。そこでカップの中に残ったラテックスとまだ少し流れ出ているラテックスが合わさり、少量のラテックスがカップに残留します。これはしばらく放置され、いずれ自然乾燥により小さな丸いゴムの塊になります。これがカップランプです。

このカップランプは別途集められ、工場で加工され、カップランプを原料とする天然ゴムのグレードになります。

ゴムの樹のその後

ゴムの樹は発芽から6-7年かけて初めてラテックスが採取できるようになります。そこから25-30年ほどはラテックスを出し続けてくれますがそれ以降は老木となり十分なラテックスが採れなくなってします。実はゴムの樹は木材としても使用できるため、老木となったゴムの樹は、ラテックスの加工プロセスの中の燻蒸工程の燃料や、木製家具の原料などにも使われます。少しサステナブルですね。

天然ゴムの燻蒸工程で使われる老木

天然ゴムの樹から社会へ

ラテックスやカップランプから出荷可能な天然ゴムの形になるまでは様々な工程があります。工程により様々なグレード分けがされており、社会の中で本当に幅広い用途(タイヤ、手袋、靴底、防振ゴム、粘着剤、テープ、ゴムパーツ、止水ゴム、輪ゴム、糸ゴム、コンドーム、風船、ゴムマット、湿布、卓球ラバーなど・・・)に使われますが、すべてはこのHevea Brasiliensis – 天然ゴムの樹 – の1種類から来ている非常に重要な資源です。

野村貿易は商社として、1917年から天然ゴムを日本へ輸入・在庫・販売しており、今後もこの重要な資源の供給に努めて行きます!お問い合わせフォームより天然ゴムについてなんでもご相談ください!

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